漢詩俳句同好会 第14回諸橋轍次博士漢詩記念大会にて3名入賞!

11月13日(日)、新潟県三条市にある諸橋轍次記念館において、「第十四回諸橋轍次博士記念漢詩大会」が開催されました。本校からは学生の部において優秀賞1名・奨励賞2名を受賞しました。上記の3名に加え、昨年度優秀賞を表彰された1名の生徒が招待作家として参加しました。表彰式後には記念館内の庭園で催された流觴曲水の宴にも参加し、それぞれが柏梁体一句を詠みました。

【学生の部 優秀賞】  3年A組 横尾 裕介

  秋気
瓶菊映窓灯火明        瓶菊(びんぎく)窓に映じて  灯火(とうか)明(あか)く
遥天山寺遠鐘声        遥天(ようてん)山寺(さんじ) 鐘声(しょうせい)遠し
桂香粉散金風下        桂香(けいこう)粉散(ふんさん)す 金風の下(もと)
幽巷蛩啼秋気清        幽巷(ゆうこう)蛩(きょう)啼きて 秋気(しゅうき)清し

〔解釈〕
瓶に入った菊が窓に映え 灯火は明るい
遠く離れた山寺から鐘の音がかすかに聞こえる
金木犀の香りが秋風に運ばれて広がる
ひっそりした村里にコオロギの声が響き 秋らしさを感じる

《流觴曲水の宴・柏梁体》
青雲道遠独安之(青雲(せいうん)道遠く 独り安(いづ)にか之(ゆ)かんと)」

【学生の部 奨励賞】  2年A組 上利 真之

  消夏
碧天如鏡映江波      碧天(へきてん) 鏡のごとく 江波(こうは)に映ず
橋畔疎鷗和棹歌     橋畔(きょうはん)の疎鷗(そおう)棹歌(とうか)に和(わ)す
晩浦荷風秋已近   晩浦(ばんぽ)の荷風 秋已(すで)に近し
暗蛍光点仰銀河      暗蛍(あんけい) 光(ひかり)点じて 銀河(ぎんが)を仰ぐ

〔解釈〕
青空が鏡のように 川の水面に映り
橋のほとりに一羽の鷗がおり 船歌と唱和する
夕暮れの浦に快い風が吹いて 秋がもう近くなり
闇の中の蛍の光が点滅し 銀河を仰いでいる

《流觴曲水の宴・柏梁体》
継華清絶共金巵(継華(けいか)清絶(せいぜつ)にして 金巵(きんし)を共にす)」

【学生の部 奨励賞】  2年A組   高岡 凜

  即事
深山野靄鳥声頻        深山(しんざん)の野靄(やあい)鳥声頻(しき)りなり
幽径寂然逢美人        幽径(ゆうけい)寂然(せきぜん)美人に逢ふ
煙雨桜桃詩景好        煙雨(えんう)の桜桃(おうとう)詩景(しけい)好(よ)し
芳薫一抹惜残春        芳薫(ほうくん)一抹(いちまつ)残春(ざんしゅん)を惜しむ   

〔解釈〕
人里離れた深い山の野原のもやで 鳥の声が頻繁に聞こえる
人けのないひっそり静かな小道で 美しい人に出会った
きりさめの桜桃(美女の赤いくちびる)は 詩を詠むのに適している
微かな香が漂って 残りわずかな春を名残惜しく思う

《流觴曲水の宴・柏梁体》
太白紅楓欲贈誰(太白(たいはく)紅楓(こうふう) 誰に贈らんと欲(ほつ)す)」

【招待作家】 3年A組 檜 司郎

  乞巧
満地叢叢蛩一声        満地(まんち)叢叢(そうそう) 蛩(きょう)一声
西風瑟瑟爽涼生        西風(せいふう)瑟瑟(しつしつ) 爽涼(そうりょう)生ず
梧桐竹実金凰影        梧桐(ごとう)竹実(ちくじつ) 金凰(きんぽう)の影
夜半天琴銀漢横        夜半(やはん)の天琴(てんきん) 銀漢(ぎんかん)横たはる

〔解釈〕
地上一面に草原が広がり コオロギが鳴く
秋風が寂しく静かに吹いて 爽やかな涼しさを感じる
(鳳凰が棲むという)青桐や竹の実があるため 鳳凰の気配が漂い
真夜中に琴座が輝き 天の川が天空に横たわっている

《流觴曲水の宴柏梁体》
桂香霞彩憶君姿(桂香(けいこう)霞彩(かさい) 君姿(くんし)を憶(おも)ふ)」

【生徒応募作品】 3年A組 横尾 裕介

  消夏
幽巷荷風簷馬鳴         幽巷(ゆうこう)の荷風(かふう) 檐馬(えんば)鳴る
一池金鯉石橋横         一池(いっち)の金鯉(きんり) 石橋(せききょう)横たふ
緑天深處林中臥         緑天(りょくてん)深き処 林中に臥(ふ)す
千里雲山睡意生         千里(せんり)の雲山(うんざん) 睡意(すいい)生ず

〔解釈〕
静かな村里に快い風が吹き 風鈴が鳴る
一つの池には錦鯉が泳ぎ  その横に石橋が架かっている
緑溢れる林の奥で 横たわっていると
千里離れた雲山を見ているうちに 睡意を催した

【生徒応募作品】  2年A組 依田 悠杜

  向夏
陰雲漠漠獨彷徨         陰雲(いんうん)漠漠(ばくばく)独り彷徨(ほうこう)す
暮靄蕭蕭一路長         暮靄(ぼあい)蕭蕭(しょうしょう)一路(いちろ)長し
皎潔杜鵑吹白草         皎潔(こうけつ)なる杜鵑(とけん)白草(はくそう)を吹く    
空城玉笛感無常   空城(くうじょう)の玉笛(ぎょくてき)無常を感ず

〔解釈〕
暗い雲が広がっている空の下で 独りさまよい歩く
物寂しい夕靄がたちこめた 一筋の道はとても長い
けがれのないホトトギスは 白草を吹いている
空城の笛の音に 無常を感じる

【生徒応募作品】  2年E組 川瀬 翔二郎

  早梅
光陰如矢早梅知        光陰(こういん)矢のごとく 早梅(そうばい)知る
窮鬼世情禍福移        窮鬼(きゅうき)世情(せじょう) 禍福(かふく)移る
残夜鐘声千里客        残夜(ざんや)の鐘声(しょうせい) 千里(せんり)の客
青灯筆硯暗香吹        青灯(せいとう)筆硯(ひっけん) 暗香(あんこう)吹く

〔解釈〕
月日が流れるのは矢のように早いもので 今春も早梅の季節となった
貧しい世の中にも 禍福ともに訪れる
明け方の鐘の声が響き 遠くからの客が来た
青灯のもとで筆硯を使っていると どこからか梅の匂いが漂っていた

【顧問応募作品】  通 文享

 芳野懐古        
流鶯十里訪春霄      流鶯(りゅうおう)十里  春霄(しゅんしょう)を訪ぬ
満目碧山花一条      満目(まんもく)碧山(へきざん)にして 花一条(いちじょう)
先帝楠公如在此      先帝楠公(なんこう) 此(ここ)に在(いま)すがごとく    
乾坤奇貨語南朝      乾坤(けんこん)の奇貨(きか) 南朝(なんちょう)を語る

〔解釈〕                      
十里の間飛び回る鶯のもとで 春景色を探してみる
見渡すかぎり青山があらわれ 桜花は一枝のみ
後醍醐帝、楠木正成公は 今でもここにいらっしゃるようなたたずまいであり
(かつて後醍醐帝が鋳造したという)幻の「乾坤通宝」が 南朝の事績を語るのみである

(韻)下平声二蕭

【注】
・「芳野懐古」‥‥奈良県吉野山の桜と南朝を詠んだ七言絶句のこと。江戸時代の詩人柳川星巌、藤井竹外、河野鉄兜による「芳野三絶」が有名。
・「春霄」‥‥春の空。
・「満目」‥‥見渡すかぎり。
・「一条」‥‥一枝。
・「先帝」‥‥ここでは南朝の帝後醍醐天皇のこと。
・「楠公」‥‥南朝の忠臣楠木正成のこと。
・「乾坤奇貨」‥‥後醍醐帝の作ったとされる幻の貨幣「乾坤通宝」のこと。
(三月末、奈良県吉野郡散策の際に詠んだ漢詩)